「自分は髪の毛にコンプレックスがあった。そんな自分が様々な事に積極的に取り組める様になったのは、美容師さんに出会ってコンプレックスをガソリンに変える事が出来たから。自分も誰かのコンプレックスを楽しみに変えれる様な人になりたい。」
「作り手として何かをやってみたいんですよね。」
最初はそんな一言からだった様な気がします。
彼と初めて会ったのは一昨年の3月。
墨田区にある服飾作家nusumiguiのアトリエでした。
当時彼はヘアアシスタントを辞めたばかりで、次のステージを探している最中でした。
「何かもっといろんな人に、身近に感じて貰える形でヘアメイクしたいんです。機会が合えばお店で展示させて下さいよ。」
そんな漠然とした声から二言三言、、、重ねる内に夜は更けました。
その年の夏、名古屋にひょっこり遊びに来た彼は、初めてお店に足を運んでくれました。
目を光らせながら、店頭のアクセサリーを手に取る彼の表情が好奇心に満ちた子どもの様だった事を今でも覚えています。
アクセサリーを間近でこんなに見たのは初めてという彼。
「僕もアクセサリー作りたいです。」
あまりアクセサリーに興味関心が深くなかった彼が、そんな事をぽろっと口にしたのがとても意外だったのと同時に、何だかとても嬉しかった事、これも鮮明に覚えています。
余談ですが、僕もアクセサリーに興味や関心が全くない人間でした。
20代前半まではこれっぽちも。
そんなある日、このお店を通してアクセサリーの楽しみを知ったんです。
小さな店内を何周もして、好奇心を撫でくり回していたいつかの自分の記憶。
あの頃の自分と彼がダブって見えたのかもしれません。
何だか少しこっ恥ずかしい気持ちになりました。
「自分は髪の毛にコンプレックスがあった。そんな自分が様々な事に積極的に取り組める様になったのは、美容師さんに出会ってコンプレックスをガソリンに変える事が出来たから。自分も誰かのコンプレックスを楽しみに変えれる様な人になりたい。」
そんな最初の一小節に“装飾”を加えて、キタムラマサヒロは作家としての歩みをスタートします。
ヘアメイクを出発点に、髪を掻き上げる手や、風に吹かれる横顔、ふとした後ろ姿等に光るアクセサリーまでを一つの円として提案した昨年の展示から1年。
今年もキタムラマサヒロの展示をギャラリースペースにて開催致します。
“分かり易さ”を求めた昨年とは違い、今年は“自分の中の濃淡”を前に出す事を主題としています。
「分かる人にだけ分かれば良い」
そういった言葉はとても潔くクールな印象を聴く者に持たせます。
媚びてなくて良い響きだなー、と思う事もあります。
しかし彼はそういった人種ではありません。
「分かって貰えるように最後まで誠意を持ちたい」
そんな人種です。
とても青臭くて、純粋な人。
そんな彼が僕自身とても好きですし、そんな彼の言葉や姿勢を少しでも多くの方々に伝えられればと思っています。
『良い』の『』は無くてもいいのです。
肝心なのは“良い”が『』で閉じられている事では無く、“良い”の前にある『』の中に言葉が詰まっている事。
『コンプレックスが楽しみに変わった』だから良い。
『アクセサリーに興味を持てた』だから良い。
カッコいい、の重さはその人の思考を持って初めて決まる。
僕はそう思っています。
本当の自分にとって“良いもの”は確固たるもの、裸のままで十分な筈。
展示に実際に足を運び、ご自身なりの言葉を見つけて頂ければ幸いです。
・キタムラマサヒロ個展 『階調』 @Fuligoギャラリースペース
会期/4/16(sat)~5/8(sun)
※会期最初と最後の1週間は作家も在廊を予定しています。
窪田
アクセス:
矢場町駅1番出口から徒歩5分
栄12番出口から徒歩10分