ジュエリーを語る上で、天然石を用いた作品を切り捨てる事はできません。
黒曜石等を利用して作られた石器から始まり、それらを用いて動物の骨や牙を加工したものを装飾として身に着ける土台は旧石器時代から存在したと云われています。
これらを身に着けるようになった経緯は諸説あり、集団における団結の象徴、身分や自己の存在証明、死者への弔い、護符、着飾り等が挙げられます。
天然石(鉱物)は中でも護符としてのニュアンスが色濃いものです。
幸運を招く、厄災や悪魔から身を守るといった効果を持つとされ、アミュレット(魔除け)、タリスマン(呪符)、チャーム(幸運の飾り・シンボル)、御守り(神道・仏教)等、幅広い祈りの拠り所として用いられてきました。
古代エジプトやメソポタミア、アンデス、メソアメリカ等の古い文明においても石の力は信じられ、神のシンボルとされていたそうです。
それら古代の風習はストーンヘンジやカルナック神殿等の巨石文化にも通じていると考えられています。
天然石(ここでは宝石といった形容がより正しいかもしれません)は言うなればより高次元な場所へ祈りを転送する為の特別なターミナルと位置付けられ、その時代や信仰のイコンとして歴史を重ねてきました。
前置きが長くなりましたが、平尾さんが手掛けるjewels and ornaments SINRA(シンラ)のジュエリーを拝見した時に初めて浮かんだのが正にこの『護符』といった言葉です。
様々な個性を持った天然石、其れを囲う金の縁取りと銀、手仕事の跡が感じられる優しい歪み。
神殿の様な神々しさも重なる佇まいは見れば見る程重さを増して、ぐっと心を鷲掴みにしました。
何故その様な印象を受けたのか。
そもそも無宗教者の自分における護符とは?
強いて言うなら僕にとって護符=覚悟や決意を取り巻くものなのかもしれません。
水辺を背にしてでも守りたい自身との約束や契り、それらを具象化して常に照らし・炙り出してくれるものであり、それらと呼吸し続ける為の酸素の様なものであり。
決して他者と交わる事のない自己という無二の個性が彼女がセレクトした天然石とリンクして見えた時、自分の内側部分を包み込む様な温かさを覚えた気がしています。
ひょっとしたらマリッジリングや戸建ての購入なんかも一種のそれに成りえるかもしれませんね。
拙い僕の感覚は言語にするには軽すぎてまだまだふわふわと逃げて行きます。
何気ない日々のつぶやきで彼女はこう言っています。
『ジュエリーは人が身に着けると起きるんです』
それはデザイン的な観点でも、それを選ぶ人の深層意識やイマジネーション的な観点でも。
祈りを重ねるのなら姿勢となってはじめて形と成る。
そこには冒頭にも記載したルーツがダブって見えます。
はっと合点がいって一人納得すると同時に、僕が見たそれは未だ目を閉じているんだな、とも想いました。
中部地方初となる今展では、開催月の誕生石となるアクアマリン作品や、実際に足をお運び頂いたこのお店をイメージして制作頂いたアイオライト・サンストーン(ブラッドショット・サンストーン)作品等も並びます。
(※作家談:アイオライト・サンストーンはかなりマニアックな素材で今回はじめて仕立てた石なのですが、なんとなくFuligoさんの薄暗く怪しげな空間に個性豊かな宝物が散らばっている感じが似ていると思い選びました。
最後の透過光によるアイオライトの写真に見える赤い内包物が「bloodshot」と呼ばれる所以です。
この石は一見暗くて地味なのですけど、光の当て方や見方によって星屑が散りばめられたようだったり血走ったりと様々な表情を見せてくれます。)
はじめてご紹介する jewels and ornaments SINRA のジュエリー達。
会期は「春分の日」を挟んだ新月~満月の日取りとなります。
満ちていく月明りの下、沢山の祈り、多くの目が開いてゆく会期となれば幸いです。
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jewels and ornaments SINRA
jewels and ornaments SINRAは、
大阪市の北のはずれにある
毛むくじゃらの犬二匹と人間ひとりの
小さなジュエリー工房です。
jewels and ornaments SINRAのジュエリーは、
FGA(英国宝石学協会正会員), GIA GG(米国宝石学会グラデュエイト・ジェモロジスト)
のタイトルをもつ石好きの作者が、
マニア心を大切にひとつぶひとつぶ選んだ石を使い、
一点一点大切に作り上げています。
「この世の有相無相、森羅万象(しんらばんしょう)への祝福」
という、遥か遠い壮大なテーマを大真面目に掲げつつ、
上質で、シンプルで、ユニークで、そして、
「人に寄り添う」ジュエリーをご提案したいと願っています。
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当初は自分が欲しい、着けたいジュエリーがなかったので作り出したという極々私的なスタートでした。
手仕事で酷使した手指にはキラキラ華やかなジュエリーはどうも似合わなかったからです。
自分で作れば数十年コレクターとして集めて続けてきた石も使えるし、素材と技法も仕上げも好きにできる。
些細なきっかけの種火から20年、その火は細く強かに灯り続けています。
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jewels and ornaments SINRA trunk show
会期:3/13(土)→3/29(日)
場所:Fuligo
3月定休日:3.4.5.8.9.12.19.26.31
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[2021年 イベント予定]
・3/13~3/29 :jewels and ornaments SINRA トランクショー(店頭)
・3/20~4/5 :田中友紀個展(分室)
・4/3~4/25 :ヴィンテージ時計展(店頭)
・4/10~4/25 :Fillyjonk pop-up(分室)
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窪田
アクセス:
矢場町駅1番出口から徒歩5分
栄12番出口から徒歩10分
毎週金曜日定休・不定休