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KAGARI YUSUKE 2022巡回展「Hear the liminal sing」:7/9→7/24

投稿日:2022年7月5日 更新日:

 

KAGARI YUSUKE 2022collection

「Hear the liminal sing」

 

夜の川沿いを歩いている。

ここには誰もいない。

ぼく以外には。

嘘みたいに真っ暗な空間の中にぽつんと橋がかかっている。

無数のリベットで接合された構造が暗闇に幾何学を描いている。

橋の色は青い。

幾度も再塗装しているのだろう。色そのものが質量を増している。

 

ぼくは橋を渡っている。

橋の中腹には大きな電灯があって、白くて眩しい光で橋を照らしている。

まるでそこだけ暗闇を切り裂いたみたいに鋭角な光。

そんな光で照らされた橋の質感に目が釘付けになる。

構造が、質感が、光が、暗闇が、美しいと思う。

その美しさは橋の機能から完全に独立している。

形が持つ機能からは独立して存在する、実在しない美しさ。

いまここでぼくは確かな手応えを持って橋の美しさに心を打たれているけど、

橋を渡り切ってしまえば、この場、この時間から離れてしまえばそれは消えてしまうだろう。

 

橋は言うまでもなく川を渡るためだけに存在している。

確かに、しっかりとした実在として。

でもぼくはその機能そのものには対して心が打たれない。

川を渡るだけなら船渡しを使った方が何倍も面白いし、風景として好きだ。

けれどもぼくは暗闇に浮かぶ大きな物体の形の有り様から目と意識が離せない。

形。

形から機能を引いたらそこには詩が残るのかもしれない。

形は人目を避けて一人でさえずるのかもしれない。

退屈な詩だ。

ほとんどの人々はその退屈さに耐えられないんじゃないかってぐらいに冗長で微かな耳鳴り。

でもその退屈さの奥には心温まる親密なリズムが鳴っている。

ぼくはそんな退屈な詩が好きだ。

美しいものは往々にして退屈なものだったりする。

橋を渡りながらそんなことを思う。

 

 

 

 

 

村上春樹の小説「Hear the wind sing」に重なるコレクションタイトルは過去と現在地の「接地面」ないし「境界」の声に耳を傾けたものだと感じます。

『今回のコレクションは自由に手を動かした』と明松さん自身が話していましたが、これは主題による過度な縛りを設けず、今の彼自身が純粋に作りたいもの・見たいものに向き合った事に起因しているのでしょう。

自由を求めて制作し続けているのに、自由になるには何かしらの不自由・成約が必須になる。

ではその自由と不自由の境界線は何なのか?

自由の外側に不自由があるのか、自由の内側に不自由があるのか。

そんなふとした疑問との対話なのかもしれません。

 

今期のコレクションで使用されている風景写真は2005年から彼が撮り溜めてきたものの中でも旧いものの割合が多いそうです。

これは意図した訳ではなく、純粋に”今”の自分が好きなものを選んだ結果だと言っていました。

昔の粗削りだった物事を今になって新鮮に感じるのは、そこからそれだけ遠くに来たから。

接写だった壁は少しづつ少しづつ離れ、現在地からはその全体像が汲み取れる。

点でのみ見た姿と、面を知った上で見る点の姿はきっと違って見えます。

田舎しか知らない人の田舎と、都会を知った人の田舎。

同じ田舎でも見え方が異なってくる事に近い感覚です。

 

作り手のみならず、生きていく上で過去との対峙がなければそこに伸展はありません。

「過去→現在→未来」といった右方向のみの矢印ではなく、↻の間に過去・現在・未来があり、それを螺旋状に接続し続ける事で人は少しづつ成長していくものだと想います。

『今良いと想ったものを明日の自分は良いと思わないかもしれない、けどそのまた先の自分はやっぱりこれを選ぶかもしれない。』

今持っている理屈は次第に削ぎ落とされてきっともっと違う形になって行く。

境界線を見つけた時なのか、境界線を再認識した時なのか、はたまた全くそんな意識も無い時なのか。

気付きっていうのはそれこそ気付いた時には既に持っていたりするものです。

それは今展の詩(冒頭文)で彼が記した「機能からの独立」に繋がるのかもしれません。

「この独立した気付きはなんなのか?」そうやってまた矢印は螺旋を描いて続いて行きます。

 

 

 

 

 

 

 

今期のコレクションを目にした時浮かんだ言葉は「脱構築」でした。

僕なりの所感ですが、今展のテーマや彼の話を聞いた時にどこか解釈として合致した気がします。

足しているようで引かれている。

引いているようで足されている。

取捨を使い分けた補完が各デザインを通して見た時に感じ取れました。

 

2007年に始まったブランドは設立から15年が経ちます。

漠然とした野心の様な原石は歳月の中で研磨され今の形状へ。

そして節目のタイミングで自然と彼の足は里帰りを迎えます。

流れの中で角の取れた石ころの様な野心を手に持って。

久方ぶりに帰るそこはきっと又異なる自由な風景に映るでしょう。

 

 

 

 

 

 

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KAGARI YUSUKE 2022巡回展「Hear the liminal sing」

会期:7/9(土)~7/24(日)

会場:Fuligo分室

期中店休日:13,15,21,22

 

KAGARI YUSUKE は2007年より活動する関東を拠点としたレザーブランド。

「持ち歩く壁」を背景に掲げ、レザーにパテ塗り・プリント・熱処理・ウェザリングなど様々なアプローチを施しカバンをはじめとした多岐に渡る作品を制作している。

 

 

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[2022年 イベント予定]

・6/25~7/10:Chi「炎の足跡」(店頭)

・7/9~7/24:kagari yusuke 巡回展「Hear the liminal sing」(分室)

・7/16~7/31:ELCAMIカスタムオーダー会(店頭)

・7/23~7/31:jouer avec moa? 「妖精の森」オーダー会(店頭)

・8/6~8/28:GIFTED個展(分室)

・8/6~8/21:所作 coin&card case trunk show(店頭)

・8/27~9/11:MIKU FUKAMITSU「VEIN」(店頭)

 

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窪田

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