「煩悩」とは仏教の教義の一つで、身心を乱し悩ませ智慧を妨げる心の働き(汚れ)を言う。
仏教では人の苦の原因こそ自らの煩悩ととらえ、その縁起を把握・克服する解脱・涅槃(ねはん)への道が求められた。
涅槃(サンスクリッド語でニルヴァーナ)は繰り返す再生の輪廻から解放された状態の事を指す。
彼が「巡る指環」をローンチした時を想い出す。
それまでの価格帯や縛り、摺り込まれたリテラシーみたいなものを一切合切放り捨てて出来上がったのがこの作品だった。
シルバーにダイヤモンド、価格は吹き抜け。
劇的と言っていいのではないかというビフォーアフター。
「これは自分の中で一種の革命です。」
いい歳こいたおじさんがいい歳こいたおじさんに、そんな事をキラキラした目で話していた事をはっきりと覚えている。
ただそんな一個人内の小さな革命一つで生活は一変したりしない。
一年以上一本も売れなかった。
「売れているものが良いものなら、世界一のラーメンはカップラーメンだよ。」って甲本ヒロトの言葉で何度も顔を拭った。
そしてこつこつと作り続けた。
「昨日も今日も負けた。そして明日も負けるかもしれない。でもそしたらまた3歩勝ちに近付いてるって事だね。」
執念というか楽観というか、仰々しくなりきれない負けず嫌い。
心折れそうな渦中でも、芯にあるそのスタンスが一種の取り柄であり救いだった。
はじめて巡る指環が誰かの所に旅立って行ったのは2年近く経とうという時だった。
最初の購入者は十数回お店へ足を運び、何度も何度も手に取って悩んできた男性だった。
「高っ。」
初見の人が口にする言葉で最も多いのがこれである。
この男性も勿論そうだった。
潔く厚みのある銀にリネンのテクスチャー、遠目でも分かる美しいメレダイヤ。
店内を流し見していた身体が歩みを止めて、自然とそれに手が伸びる。
その後目線を下に配ると、数字を数えながら静かにそれを元あった場所に戻す。
口にするのは先述の一言。
買うに価するのかを考えてもらう価格、そういった値付けだった。
2年前に起こした自己への反旗だったが、それは中々重たかった。
今までの価格の数倍、細かな仕上げよりも潔さを求めた質感のそれは、目には留まれど動けなかった。
ものっていうのは他の力が作用しないと動かない。
彼の反旗もそれだった。
確かに生まれて存在はした。
けど、他の力が働かなければ動けなかった。
はじめてそこに力が作用した。
「買います。」って言葉は認められた事に等しい。
もの作りの極致はきっとここにある。
「別に僕のファンなんかになってもらわなくていいです。ただその人が生きていく50年なり100年なりっていう線上で、一点だけでも自分が作ったものが交われるんであればそれでいいです。」
彼は本音でくさい事を言いながら嬉しそうだった。
匂いフェチの僕はこういった所も好きだけども。
シンクロニシティなのかなんなのか、力が一度作用すると流動が始まる。
ぽろぽろと彼の作ったものが旅立っていく。
少しづつ手持ちのアクセサリーを増やしてきた人々、数年悩んできた人々が「高価な〆のお茶漬け」を注文するようにそれを選んでいく。
ベタなところ親鳥の心境ってこんな感じなんだろうと思う。
マイペースな彼はあまり騎手のいう事を聞かない。
走りたい時に走り、走りたくない時はとことん走らない。
100戦5勝くらいの馬だろうか。
ただ、その内3勝くらいがG1だったりする。
みどりのマキバオーで例えるならベアナックル的な立ち位置。
その癖負けず嫌いなのだから矛盾の塊だ。
でもそれも含めての彼である。
彼の中でもの作りは、煩悩を許容する為の如来像みたいなものであり、ぐるぐる巡る雑念に再生を与えないための手段なのかもしれない。
6/20(土)から7/19(日)迄のおおよそ一ヵ月間、店頭にて kuraishi takamichi によるトランクショーを開催致します。
今催しは奮い立ったあの時・原点へ立ち返ったものとの位置付け。
再確認の場であり、確信とする為の会期です。
百八つの装具を一堂に並べてお待ちしています。
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kuraishi takamichi トランクショー 「巡る指環」
会期:6/20(土)→7/19(日)
場所:Fuligo店頭
定休日:毎週金曜日
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[2020年 イベント予定]
・~6/30 :ELCAMI カスタムオーダー会(店頭・オンライン共に会期延長中)
・6/13~6/28 :emme 個展「柔らかな光」(ギャラリー)
・6/20~7/19 :Kuraishi Takamichi トランクショー「巡る指環」(店頭)
・7/23~8/30 :GIFTED トランクショー(店頭)
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窪田
アクセス:
矢場町駅1番出口から徒歩5分
栄12番出口から徒歩10分
毎週金曜日定休